書評 - チューリングの計算理論入門
- 作者: 高岡詠子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2014/02/21
- メディア: 新書
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書籍の概要と目次は
http://bookclub.kodansha.co.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=257851
から参照していただきたい。
本書の魅力は、「計算とはなにか」について読者を説得する部分である。人が普段行っている計算が「分岐」と「反復」を含んでいることを丁寧に説明しており、おそらく専門外の人間にもわかりやすいだろう。
中でも次の部分は個人的には気に入っている。
人間のあらゆる作業を「計算」として定義することができる
(p. 24)
このようなことを序盤からぶっぱなしている。ドン引き食らいそうな一文だが、理解できなくもない。
一方で、理論の話になると怪しい説明が目立つ。特に非決定性計算の説明は誤解を生みそうだ。
(前略) 厳密な答えではないかもしれないけど、条件により近い答えの候補をいくつか出すことができればよいではないですか!このような、 (中略) アルゴリズムを「非決定性アルゴリズム」と呼びます。
(p. 173)
他の細かい言い間違いには目をつむるとしても、この説明は看過しがたいほど酷い。非決定性のプリミティブな意味(複数の状態に遷移できる)は一応説明してあるが、この誤解を生みそうな説明も繰り返し行われる。こういった説明を読んだ読者は正しい理解ができるだろうか?僕が専門外の読者なら、非決定性アルゴリズムというよりはヒューリスティクスのようなものを想像したか、もしくはプリミティブで正しい意味との食い違いに混乱しただろう。この点は残念だ。
ひとまずは、ブルーバックスでも数少ない計算機科学の新書に新たな一冊を卸してくれた著者の高岡詠子氏に感謝したい。こういうチャレンジはとてもありがたい。